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「おぉ、やっと来たか。待っていたぞ」
寺子屋前で帰りを待っていた慧音が、手を上げてそう言った。
「……悪いな、待たせた」
「いや、そろそろだろうと思って、さっき出て来た所。
阿求さん、こんにちは」
「こんにちは、慧音さん」
慧音と阿求さんは先ずは挨拶を交わした。
そして直ぐに、彼女は困った顔を浮かべた。
「はは…それにしても、また大量に資料を持って来られましたね」
「新たに書き記した物も含まれてますから。それにコレぐらいは必要かと」
「うん、まぁ……そうですね。有り難う御座います」
合わせているようだが、顔が困り果てている。
さすがに、これ程の数は必要無かったと見て取れる。
「重い物を持って来て大変だったでしょう。中でお茶でもしませんか?」
「そうですね。流石に疲れましたし、折角ですので頂いて行きます」
「そうですか。時雨はどうする?」
慧音が此方に問い掛けた。
阿求さんも此方を振り向いていた。
答えは既に決めている……――と言うよりも、そろそろ良い時間である。
「……悪いな、生憎用事が有るんだ」
「そうか。それは残念だ」
「残念です」
「……それじゃあ、またな……」
「はい」
「あぁ、気を付けてな」
「……その台詞、自警団員(コッチ)が言うもんだ。お前らも……気を付けろよ?」
冴えない顔で、作った笑みを見せた――決してそれは喜ばしいと云う意味では無かった……。
「あぁ、分かってるよ」
これの意を察した慧音は「心配するな」と言わんばかりの笑顔を見せた。
ま……確かに、彼女らだったら心配は要らなそうだな……。
これから寺子屋にて寛いでいく二人に、手を振ってから歩き始める。
――次に向かう場所は、使われなくなった物が住み着く住居だったな……。
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