Ⅲ

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啓介の言い方に、思わず笑ってしまった。 恐らく彼が気をつかってくれているのだろうと、分かったから。 啓介のおかげで和やかになった雰囲気の中、恵美は言葉を探しながら続けることが出来た。 「脅かされちゃったんですよお。 あの。和成先輩が……ジュリさんと。 えっと……その、キスしてたって。 言われちゃって」 言ってしまってから、一仕事終えたというように力を抜いて、上目で啓介に目をやる。 きっと、またすぐに冗談の一つでも言いながら笑わせてくれる、と期待していたのに。 啓介は、どうしたのか、恵美の見ている前でグラスをひっくり返してしまったのである。 思いがけない恵美の言葉に、手からグラスが抜け落ちてしまったらしかった。 「先輩!?」 恵美はギョッとしながらも、手近にあった紙ナプキンを取り上げて、テーブルに広げた。
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