Ⅲ

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恵美としてみても、どこに行くのか分かっていないのだから、彼らの質問に答えようと思っても答えられない。 しかも。 「どこに行くんですか……?」 と訊ねてみても 「鞄、持ってる?」 何故か、質問に質問で返されてしまうのだから、話にならない。 恵美も恵美で、文句の一つでも言えば良いものを、圧倒されるあまり素直に頷いてしまうのだから仕方がない。 和成を信頼しているといえば聞こえは良いが、結局のところ、彼に意見なんてできないのである。 それに、抵抗したところで、力ずくで引っ張っていかれるのは分かっていた。 だったら、おとなしくついて行ったほうが懸命だと、数ある過去の経験から知っていたのだ。
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