Ⅲ

46/50
前へ
/632ページ
次へ
クルリと思い切ったように振り向いた彼は、開口一番 「入らん」 と言ってのけて、先に立って歩いて行ってしまったのである。 ところが、追いかけようと早足になった恵美が彼に並んだ時。 「じゃあ……まあ。今度、な」 唐突に、訂正した。 「今度って……」 思いがけない言葉に驚く彼女に、和成は言った。 「だから。お前の誕生日。そん時なら、行ってやるよ。 しょーがないから」 吐き出したのは、溜め息だったのに。 彼の唇の端が、かすかに引き上げられているのを、恵美は確かに見た。
/632ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3303人が本棚に入れています
本棚に追加