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「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!」
焦るあまり何度も呟いた言葉は、全力疾走しているおかげで、ほとんどゼイゼイという息切れの音にしかならなかった。
せっかく買ったばかりのワンピースも、今や裾が大胆に翻ることさえ気にされることはなくなって。
とにかく、一秒でも早く待ち合わせ場所に辿りつくことしか、彼女の頭にはなくなっていた。
そんな恵美の前に立ちはだかる、人の列。
そして、こんな時にかぎって足止めを食わせてくる信号機。
見ているだけでも心が温まるような、のんびりと歩く老夫婦でさえも、今日ばかりは彼女の天敵でしかなくて。
ぶつからないようにという気配りだけは忘れなかったものの、いつものように、その後ろをゆっくり歩くわけにはいかなくて、急ぎ足で追い越していく。
すると、走って走って走った先に、ようやく和成の姿が見えたのである。
しかも彼は、一足先に彼女に気がついていたようで、しっかりとこちらに顔を向けていた。
ところが。
その表情は笑顔ではなく、怪訝そうにしかめられいることに、恵美は気がついた。
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