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「先輩っ」
彼の真ん前まで来て、ようやく足を止めた彼女は、もう肩で息をするのがやっとで。
それ以上、口にすることはできなかった。
が、和成は何を言うでもなく、厳しい顔を保ったまま、しばらく彼女を見下ろして
「……誰かに、追いかけられてんの?」
「……は?」
突拍子もないことを口にして、恵美を唖然とさせた。
「なに言ってるんですかあ。そんなわけ、ないじゃないですか。
私は、遅刻したら先輩に怒られると思って、頑張って走っただけですよっ」
まだ途切れ途切れになりつつも、笑いを交えて言ってみても、彼はやっぱりポカンとしたまま。
訳がわからずにいる恵美に、シャツの袖を捲って腕時計を見せながら
「……待ち合わせまで、あと15分あるけど」
淡々と言ったのだった。
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