Ⅳ

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「先輩がっ?」 まさか、本当に連れて行ってくれるなんて思ってもみなかった。 どうせ口約束だけして、当日になれば、うやむやにしてしまうのだろう、くらいにしか思っていなかったのである。 が、恵美は少しでも和成を疑ったことを恥じなければならなかった。 「ここ……だろ」 まだ店の扉を開いただけだというのに、もうウンザリしたような表情を浮かべてはいたけれど。 彼は逃げも隠れもせずに、恵美が中に入ろうとしないのを呆れたように眺めていた。 「なに?早く入れよ」 「は、はいっ」 彼が自分の為に我慢してくれていると思うと、なんだか、もう胸が熱い。 ねこカフェに行きたいなんて、その場の思いつきだったのだけれど、なんて小さな罪の意識を感じつつも、やはり嬉しいものは嬉しかった。
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