Ⅳ

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「あったかい」 時折尻尾を揺らす以外は、まるで置物のようにも見える猫。 けれども膝から伝わってくる体温は、確かに命の暖かさを感じさせて、気持ちまであたたかくなる。 「見て見て、先輩っ」 恵美が和成の膝を突っつきながら言うと、彼はちょっぴり顔を覗かせて、猫を見ていた。 が、二言三言何か言ってから、すぐに目をそらしてしまったのだった。 「つまんないの」 恵美はしばらく、黙って猫を撫でていた。 そうしながら他の猫や客の様子を見ているだけでも、飽きずに楽しかったのである。 ところが、ココアちゃんと呼ばれた黒猫のほうは、違ったようで。 「あ、起きた……かな?」 ピクピクと耳を動かし始めたのに気がついた恵美が、顔を覗き込もうと首を曲げるなり、ストンと膝から飛び降りて、歩き出してしまった。
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