Ⅳ

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「え……ええっ!?わ、私は料理なんて出来ないですよお」 「そうなの?家で、作ったりしないの?」 「いや、だって……お母さんが作ってくれるから、私は食べる専門っていうか……」 尋問されている容疑者のように、明らかに挙動不審な恵美。 が、和成は自信たっぷりに指を伸ばすと、恵美の隣に置いてあった彼女の鞄を指して言ったのである。 「それ……俺のために勉強中ってことじゃないの?」 「は?なんの話です……か」 首を曲げて、彼の指さすものを見るまで、恵美は本当に彼が何を言っているのか分からなかった。 身に覚えはこれっぽっちも無かったから、また彼の勘違いだろう、くらいにしか思っていなくて、安堵の息さえもらす余裕があったのだ。 ところが。 「あ……」 「やっぱり、そうなんでしょ?」 視線の先に、今朝までは持っていなかった物を発見した時には、しまったという敗北感さえ感じることになってしまった。 鞄から頭を覗かせていたのは、里美たちがくれた誕生日プレゼントの料理本だったのである。
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