Ⅳ

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悲痛な声で訴えると、さすがの和成も動きを止めた。 「……マジか。 家庭科って……小学生の時?」 「いえ、一応……高校のときも、調理実習はやりましたけど。 同じ班になった男子に『俺の方が包丁使い上手いんじゃないの?』ってバカにされました……」 もう、かける言葉もないといったふうな和成。 が、恵美がしょぼくれて肩を落としていると、 「分かったよ」 と言うなり、伝票を手に立ち上がった。 これで、この話題は終わりなのだろう、と恵美もホッとしかけたのだけれど。 レジに立って財布を出しかけた恵美の手を止めると、彼は怪しげな言葉を囁いたのである。 「俺が奢ってやる。 お前はあとで……スーパーで色々買わなくちゃいけないだろうからな」
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