Ⅳ

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「まず牛肉を……。って、ここ狭いんですけど!」 まず恵美が困惑したのは、台所の大きさだった。 彼女の家の台所よりも、かなり小さな和成の部屋の台所は、短い廊下の脇にちょこんと収まっているだけで。 一台のコンロの隣に、狭苦しい流しがあるだけで、まな板を置くスペースもないのである。 「うるせえなあ。1人暮らしの台所なんて、こんなもんなんだよ」 「えー?じゃあ、材料はどこで切ったらいいんですかあ」 「ここでいいだろ、ここで」 「ここー?」 文句が飛び交って、ただでさえ不慣れな作業は進まない。 散々『俺は手伝わない』と言っていた和成も、とうとう最後には手を貸さずにはいられなくなったようで。 「あー、もう!これは俺がやっとくから、お前はそっちを切っとけ!」 などと、菜箸代わりの割り箸で、肉を炒め始めるのだった。
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