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「何って……いいじゃん、別に。
恵美の顔、見たいんだって」
からかうように言ったまま、やはり和成は、ほんの僅かな距離を保ったまま、動かない。
触れそうで触れない唇が、なんだか、もどかしかった。
何に触れるでもない時間が、ゆったりと過ぎていく中で、段々と物足りなさだけが募ってきて。
薄く唇を開いてみたり、ツンと突き出してみたりしながら、その時間をやり過ごす。
が、一向に近付く気配のない彼に、とうとう恵美は、また口を開かなければならなかった。
「せ、先輩……!この中途半端な距離だと……気になっちゃうんですけど」
「ええ?いいんだって。気にすんなよ」
彼は爽やかに笑ったけれど。
もう恵美はじれったくて仕方がなくて。
「そんなこと言われても……気になっちゃいますよおっ」
と不平を漏らしたところで、ようやく彼はコツンと額を彼女のものにぶつけて、言った。
「それって、離れてほしいってこと?
それとも……近づいてほしいってこと?」
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