3303人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の瞳に魅せられてしまったように、目が離せない。
「あ……」
なにか言わなければいけないと思っているのに、喉がそれを拒む。
ゆっくりと伸びてくる彼の指だけを見つめて。
次に起こる出来事を予想することも出来ずに、息を詰めたまま待っていた。
そっと頬にふれた彼の指が、自分以上に熱いことに驚いて目を上げると、彼はちょっと困ったようにこちらを見ていた。
そして、もう一度、甘い声で彼女の名前を呼んでから、思い切ったように大きな手のひらを彼女の頭に置くと、ポンポンと優しく撫でたのだった。
「ばーか」
そう笑う彼の声は、もうすっかり緊張の糸が解けたように、さっぱりとしていた。
恵美が思わず拍子抜けしてしまうほど、晴れ晴れとした笑い声を上げて、いつも通りの意地悪な目を恵美に向ける。
最初のコメントを投稿しよう!