Ⅳ

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が、彼は急に笑いをかき消すと、恵美に顔を近づけて 「分かってるって」 急に、口調を改めて囁いたから、恵美の方が面食らってしまったほどだった。 しかし、それは彼の真面目な言葉なのだと気がつくと、彼女もピンと背筋を伸ばしたりして、ちょっぴり体を強張らせた。 「恵美が……そういうこと真面目に考えてたんだって分かったのは、嬉しかったよ? だって、お前さあ。俺が無理矢理、手出しすると、いっつも怒ってばっかりだったからさ」 「それは、無理矢理だったからいけないんですよっ」 「まあ、そうかもしれないけど」 小さく笑って、ぽんぽんと頭を叩く。 不意に恵美の頭の中に浮かんできたのは、ねこカフェで和成に撫でられていた黒猫のことだった。 大きな手に撫でられて、気持ち良さそうに目を細めている姿は、自分と変わらないなと思ってしまうと、思わず口元が緩んで。 和成に不思議そうな顔をされながらも、恵美はついつい目を閉じて、甘えるように彼にもたれかかってしまう。
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