4:昔のことを言うと鼠が笑う

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始めこそ、一つだと思っていた影。 その広い背中は、顔こそ見えなかったものの、すぐに誰のものか恵美には分かった。 いつも背中ばかり追いかけているから、とも言えるかもしれないが、それは間違いなく和成だったのである。 しかし、彼女が口を開こうとした時。 重なり合っていた影が、二つに分かれたかと思うと、彼の向こう側から、一回り小さな影が現れたのだ。 と同時に、遅れて入ってきた里美たちの声が、その狭苦しい空間に響いた。 「恵美ってば、早すぎっ。なに、はしゃいでんのよっ」 そのおどけたような声には不釣合いな顔を、恵美はしていたに違いない。 彼女は目の前の光景が信じられず、顔をゆがめていたのだから。 「和成先輩……。ジュリさん……?」
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