4:昔のことを言うと鼠が笑う

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懸命に訴えるように和成は何か続けようとしたけれど、恵美は先を聞く勇気がなかった。 自分でも意識しないうちに、体のほうが反応してしまって。 和成が自分の名前を呼ぶのを背中に聞いて、駆け出してしまっていた。 重い扉が、すぐに彼の言葉を断ち切って、代わりにうるさいくらいのクラクションの音が飛び交い始める。 どこか遠くのほうで、もう一度、自分の名前を呼ぶのが聞こえた気もしたけれど、振り返ることもせずに足を進める。 駆けるような足音が追いかけてくるのは分かっていたが、早足に人波に紛れ込んだところで振り返っても、誰の姿も見えなかった。 「ふう……」 重い溜め息をついてしまった理由さえも、自分では分からなかった。 うまく逃げ切れたことへの安堵の気持ち。 それとも、誰にも見つからなかったことを、残念に思っていたのだろうか。 ドロドロとした感情は、一言ではとても説明できそうにはなくて。 とにかく、一刻も早くこの場から離れようと、ひたすらに足を進めた。
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