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不意に鞄の中で震える携帯電話に我に返った恵美は、それを手にとって眺めた。
並んでいる名前を目にした瞬間、反射的に体が強張る。
それでも、彼女はほんの数秒しか、悩まなかった。
「はい」
通話ボタンにかけた指はかすかに震えていたくせに、思いがけず声はシャンとしている。
まだ感覚が麻痺しているのかもしれない。
悪夢から覚めきらない体が、重い。
「もしもーし、恵美?今から会おうよ」
今日ばかりは、文雄の軽々しい言葉に、身を委ねてしまいたかった。
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