Ⅰ

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店内の薄暗い照明に、ようやく目が慣れ始めた頃。 また、鞄の中に入れておいた携帯電話が震えるのを感じて、肩がピクリと動いた。 が、恵美の手は、それを確かめようともせず、膝の上から動かない。 固く握りしめられた指は、細かく震えながら着信が止まるのを待っている。 しかし、彼女の意志に反して、携帯電話はしつこく振動を続けて、恵美を怯えさせていた。 「また、鳴ってるね」 「……はい」 並んで座る文雄の大きな手が、フワリと恵美の手に重なった。 いつもならば、恵美は即座に手を引いていただろう。 けれども今は身じろぎもせず、その暖かい指の感触をぼんやりと確かめるばかりだった。
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