お姫さまは袋のネズミ

Ⅰ

「まあ……恵美はボケーッとしてるし。
カズは電話かけまくってるし。

ってとこから考えると、喧嘩でもしたのかなあ」

当たらずとも、遠からず。

正確に言えば、喧嘩にもならないうちから、恵美が一方的に逃げてしまっているのだけれど。

かと言って、今、和成と向かい合ったとしても、何を話すのだろう。

面と向かって、彼を責めるのか。

問いただして、怒りをぶつければいいのか。

そんなことを考えてみても、やはり実際に恵美が和成の前に立てば、声が出なくなってしまうのだろうと思えた。

そしてきっと、言葉の代わりに溢れてくるのは……。

「あーもう……泣くなよ」

文雄の指が頬に当てられて、ようやく涙がこぼれたことに気がついた。

まばたきもしていないのに、後から後から溢れてくるのを、止めることが出来ない。