Ⅰ

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文雄の前で涙を見せるなんて、嫌なはずなのに。 彼の指から伝わってくる温度を感じていたくて、触れられるのを拒むことが出来なかった。 「恵美も、色々あるんだなあ。いっつも、カズの隣でニコニコしてるくせにさ」 彼の言葉が、突き刺さる。 いつも和成の隣で、どんな顔をしていたのか思い出せなくて。 本当に和成と一緒にいたのかさえ、分からなくなってしまって。 何も言えないくせに、涙だけが、いつまでも溢れてくるのに、我ながら呆れてしまう。 段々と麻痺してきた頭は、考えることを放棄してしまったようだ。 文雄の手が肩に回された時も、恵美はもう何も考えられずに、それを受け入れていた。
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