Ⅰ

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「そんなに悲しそうな顔しないでよー。俺まで悲しくなっちゃうじゃんっ。 寂しい時は、俺がいつでも……慰めてあげるよ?」 文雄の声が近づいてきて、唇がかすかに耳に触れた。 それに反応するように、恵美の肩がピクリと動く。 と同時に、彼女の唇も小さく震えた。 「……別れた方が、いいのかなあ」 「ん?それ、本気で言ってんの?」 「分かりません……。 もう、どうしたら良いのか……分かんないんです」 息を吸う度に鼻がグズグズとして、恥ずかしくて。 また、目が熱くなってくる。 それに気がついた文雄は、回した腕に力を込めて、彼女の頭を引き寄せた。
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