Ⅰ

10/74
前へ
/632ページ
次へ
「……あんまり、言いたいことじゃないんですけどね」 恵美は前置きをしてからも、やはり率直に言うのは躊躇われて、なんともあやふやな言い方で自分の見た状況を伝えた。 「フミさんが、見たのと同じ光景を……見ちゃったんです」 それには文雄も、分からないというふうに、一瞬キョトンとして 「俺のと同じ?それって、どういう意味……」 と言いかけたのだけれど。 最後まで言い終わらないうちに、感じるものがあったようだった。 「もしかして、カズとジュリが、またキスしてたってこと?」 オブラートに包まない物言いに、恵美の方がドキリとしてしまう。 しかし彼女は、小さく頷いて、彼に答えた。
/632ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3303人が本棚に入れています
本棚に追加