Ⅰ

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「でも、そんなに苦労してまで……あいつと一緒にいる意味なんて、あるの?」 彼の言葉が、まっすぐに身体を射抜いて。 ズキズキと痛んだ。 「意味なんて無くても……一緒にいたいんです」 「うーん。恵美だけが一方的に、そう思っててもねえ。 カズは、もう飽きてるのかもよー。恵美といるの」 「そんな……の」 「有り得ないって、はっきり言える? だって、彼氏が自分以外の女とキスしてんの見てるんだよ? そう考えちゃっても、おかしくないでしょーよ」 文雄の言葉に、右に左に揺らされて。 かすかに残っていたはずの自信までもが、音を立てて崩れていくようだった。 もし、このまま彼の話を素直に聞いていたならば、半ば洗脳でもされるように文雄の言うことを受け入れてしまっていたかもしれない。 しかし、それを遮って、怒ったような声が飛び込んできたのである。 「恵美!!」
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