Ⅰ

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少しの間、恵美どころか和成でさえも動きを停止させてしまうほどの、低い声。 思わず身震いしてしまいながら、恵美は恐る恐る和成を見た。 すると彼は、挑むように文雄を見て。 思いがけず冷静な声で、話し始めた。 「……自分はどうなんだよ」 「どうって、なにが?」 「ジュリの彼氏面するんだったら、ちゃんと、あいつの事を大事にしてやれってことだよ」 「……は?」 文雄は、目を細めると、威嚇するように和成を睨む。 文雄も、恵美も、和成がなにを言いたいのかが分からずに、ポカンとしているばかりだった。 それから和成は、静かに恵美の方に顔を向けた。 その目は、いつもの自信に溢れた光を失っていて。 心細そうに揺れながら、それでも、まっすぐに恵美を見つめていた。 「言い訳するわけじゃないけど……さっきの、あの……あれは。 ジュリから、してきたんだよ」
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