Ⅰ

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「あ……え?」 彼の言葉が、じわじわと脳に染み込んでいく。 が、それが何か作用をもたらすことは、なかった。 「……そうなんですか」 とは言ったものの、恵美は困惑していたのである。 そんなことを言い始めた和成に、ではない。 どちらからキスを仕掛けたのかなどと、考えてもみなかった自分に気がついて、困惑していたのである。 言われて初めて気がついた。 彼女は、和成とジュリが唇を重ねているところを見てから、一度も、どちらから唇を寄せたのかなどとは考えたことがなかったのだ。 しかし、そう言われてみれば言われてみたで、やはり脳が素直に彼の言葉を受け入れようとはしなかった。 疑う気持ちが生まれるのを、止めることができない。 ましてや、それを彼女が口にせずに耐えているというのに、隣の文雄が追求し始めるのだから、もうどうすることも出来なかったのである。 「はあ?ジュリが? ……お前が、したんじゃねえのかよ」
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