Ⅰ

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「邪魔って?フミさんと恵美のところに俺らが行くことの、どこが邪魔になるわけ?」 つっかかるように和成が言う。 その口調は、荒々しくて。 まるで叱られてでもいるような気がして、恵美は思わず首をすくめた。 が、それに文雄は笑いながら答えたのである。 「あー、確かに邪魔だったよなあ。 せっかく、これからってところだったのにさあ」 「なに言ってるんだか。恵美に限って、これからってことなんかないでしょーよ」 「えー?それはどうかなあ。 恵美、結構へこんでたから、スッゲー優しくすれば、もうどうなってたか分かんないよ?」 「そんなの!」 思わず口を開いた恵美と和成の声が、見事に重なった。 同じタイミングで声を上げてしまったことが恥ずかしくて、急いで唇を閉ざす。 すると彼も、気まずそうに、しばらく口をモグモグとさせていたが、やがて言いなおすように薄く唇を開いた。 「まだ、恵美には……ちゃんと、話せてないことがあるから。 本当は、全部隠していられれば、その方が良いと思ってたんだけど。 もう、そんなこと言ってられそうにないし。 今……ジュリもフミさんも揃ってるところで、全部正直に、話すよ」
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