Ⅰ

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やけに硬い口調の和成の声に、ドキリとしてしまった。 隠していられれば、なんて、わざわざ言うからには、きっと恵美にとっても嬉しい話なんかじゃないことくらい、すぐに分かって。 思わず、逃げ出しそうになる。 が、文雄が、まるで挑むように 「もったいぶってないで、さっさと話せよ」 和成を睨みつけると、恵美の心の準備なんか誰も待ってはくれそうになかった。 辺りでは、変わらずに客の笑い声が響いているのに。 静まり返った場に、1人立ち尽くしてでもいるような気分。 だから、和成がまず恵美ではなく、文雄の方に目を向けた時などは、どうしようもなく心細さを感じてしまったほどだった。 「フミさん。これは、俺が言うことじゃないって分かってるけど……」 和成が口を開いて、すぐのこと。 「やめてよっ。その話はしないでって言ってるでしょ!」 ジュリが急に和成と文雄の間に割って入るようにして体を滑り込ませたものだから、やっとのことで進みかけた話が、またしても中断してしまった。
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