Ⅰ

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「なにって……」 文雄が言ったのに気がついて、今度は彼に目を向ける。 が、すぐにジュリの声が彼の弱々しい声に重なった。 「フミが色んな女に手、出してるのに、私が気がついてないとでも思ってたの? 気がつくに決まってるでしょーが!あんなに何人もいれば! バカじゃないのっ?」 「……はあ?お前にだけはバカだなんて言われたくねえよ」 「あんたの方がバカでしょうが! しかも、カズ君の彼女にまで手を出そうとするなんて。 本当に、最低!」 ジュリが吐き捨てるように言うと、文雄は口を閉ざして目を細めた。 かみ締めた下唇がみるみる赤くなるのが、薄暗い中でも恵美の目にはっきりと映った。 「……最低なのは、どっちだよ。俺だって、さすがに後輩の彼女にまで手を出そうとは思わなかったよ。 でも、お前らのせいだろ。 ジュリとカズが先に浮気したから……。 恵美を、カズから奪ってやろうと思ったんだよ。 ジュリを捕られたまんまじゃ、引き下がれないだろー?」
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