Ⅰ

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「まあ、そんなこと言っても、お前らは何回もキスなんてしてるんだろうから? もう、どのキスだったかも分からねえだろうけど。 でもさ、あれを見なければ、俺はカズに復讐してやろうとは思わなかったし、もちろん恵美に手を出すこともなかった。 つまり、完全に、お前らが悪い」 興奮のあまりか、途中かなりの早口になった彼の言葉は、恵美の耳にほとんど入ってこなかった。 が、決め台詞のように改まった口調になった最後の言葉だけは、はっきりと聞こえて。 心臓が跳ね上がる。 「……知ってたんだ」 早く反論してほしいのに。 和成たちの言い分を聞いて、今すぐに安心したいのに。 恵美の期待を裏切るように、和成とジュリは困ったように目を見交わす。 その一方で、文雄の目は、さも得意気にキラリと光ってから、すぐに閉じられた。
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