Ⅰ

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「そうでしょ?」 咎められるように言われても尚、文雄は逃げ道を探すように顔を背けて、口をモグモグと動かしていた。 が、無理矢理に笑顔を作ってジュリのほうを向こうとしたところで、彼女に思い切り睨まれて、ようやく観念したらしい。 一つ大きく息をついて、口をへの字に曲げたかと思うと、渋々と言ったように話し始めた。 「あーあ、分かったって。怖いなあ」 さっきまで、問い詰めていたはずの文雄の口調は、一転して追い詰められている側のものへと変わる。 ジュリは威嚇するように腰へと手を当てていたが、その細い指は落ち着きなく動いて服の裾をつまんだり離したりしていた。 「その女の子。確か、美香って言ってたけど?」 「あー、美香ね。いたいた、そんな子」 もう、言い逃れができないと開き直ったのか、文雄の態度はふてぶてしいものだった。 ふんぞり返るようにして背もたれに頭を乗せると、瞳を宙へとさ迷わせる。 「そいつが何ー?俺が出かけてる間に、家に来たの?」 「そう。……ビックリ、した」
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