Ⅰ

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「そっかあ」 ケラケラ笑う、文雄。 その笑い声は、悪気などこれっぽちも感じられなかった。 もうすっかり、いつもの余裕のある文雄の笑い方へと戻ってしまっている。 半ばやけくそとも思える彼の態度に、恵美はもう、ただやだ呆れるばかりだった。 「で?」 「それで……私も彼女も顔を見合わせて、ちょっとの間、立ち呆けちゃったよ。 しかも、その子……制服だったんだから。すぐに女子高生だって分かったけど……フミに妹がいるなんて聞いてもいなかったし。 さすがに、あんたが女子高生にまで手を出してるとは思ってもみなかったしね。 ……あの時までは、だけど」 ジュリが言葉を切ると、文雄は「あー、そう」と笑いながら頭をかいた。 言い逃れようとも思わない彼の態度は、ジュリの目にどう映っているのだろう。 恵美は気になって、ジュリに目をやったが、残念ながら彼女の位置からは、その表情を読み取ることはできなかった。
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