Ⅰ

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「しかも、その子があんまり女子高生っぽくないもんだから、もっと驚いちゃったよ。 あんたの周りにいる子なんて、どうせ、もっとバカっぽい子ばっかりだと思ってたのに。 私と出くわすなり、もう泣き出すんじゃないかって、こっちが心配になっちゃうくらい不安そうな声で『文雄さんは……?』なんて言っちゃって」 最初、聞いていた恵美は、ジュリが泣きまねをしているのだと思った。 が、すぐに気がついたのである。 彼女が真似でもなんでもなく、声を震わせていることに。 ジュリは、そんな姿を文雄に見せたくはなかったのだろう。 不意に彼から顔を背けるように、振り向いた。 と、その時、恵美は彼女の瞳に溢れんばかりの涙がたまっているのを見た。 「本当は、殴って追い返してやろうかと思ったんだけどさ。 あんまり可哀想だったから、ついつい優しく答えてやったわよ」 「ふうん。でも、それが俺が手を出した子だって証拠はないだろ?」 文雄は言ったが、ジュリは目を見開いて、文雄に向き直った。 「ちゃーんと、確かめといたわよ。『フミの彼女?』って。 そしたら、『はっきり、そう言われたわけじゃないですけど』って。 また、弱々しい声で言ってた」
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