Ⅰ

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「『はっきり、そう言われたわけじゃない』!」 文雄が急に大声を上げた。 「ってことは、お前もはっきり聞いたんじゃん。 俺が、浮気なんかしてないって」 「はっきり言ってないだけで、あんたが大事なところはうやむやにしたまま、好きなように遊んでたってことでしょ」 「うーん。まあ、好きなように思ってればいいけどさあ。 結局、本命はいつでもジュリだけだったってことだってー」 文雄が体を浮かすと、ジュリのほうへと腕を伸ばす。 が、ジュリは身をよじって、ヒラリとそれを交わすと 「まだ、話は終ってない」 今度は恵美に向き直った。 「その子にはね、『私が本当の彼女だ』とか、そんなことはとても言えなかったの。 言わなかったけど……。 彼女のほうも、うっすらと感づいたみたいだった。 結局、小さく頭を下げて、逃げるように飛び出して行っちゃったわ」
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