Ⅰ

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「カズくんは、嫌だったと思うけど」 恵美の様子を窺うように、前置きしたジュリの声が固くなる。 「すごい、あったかくて、優しくて……安心できた。 カズくんの彼女になれば、こんな感じなんだろうなあ、とか思ったりしてさ。 ……彼女になる人が、羨ましかった」 心臓が大きな音を立てて騒ぐ。 恵美は、真っ直ぐ見返してくるジュリから目が離せなかった。 「フミのことなんか、すっかり忘れてさ。 カズくんが欲しいって思ったんだよ。 付き合いたいっていうか……なんだろう、『欲しい』って。 そんなこと考えたこともなかったくせにね」 何も言えないでいる恵美に、自分の存在を思い出させるかのように和成が息をつく。 が、残念ながら、今の恵美には彼を気づかうだけの余裕はなかった。
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