Ⅰ

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正直に言えば、ジュリの気持ちが分からないでもない。 辛い状況にいれば、他の人の優しさが身にしみるのも、分かる気がした。 ……というのは、恵美だって現に、悲しみの中で文雄に優しく接されれば、嫌な気は全くしていなかったのだから。 しかし、ジュリの指す相手が和成だというならば、いくら気持ちが分かったところで応援する気になどなるわけもない。 どんよりとした雲に埋め尽くされた腹の中は、もう容量がいっぱいだったのだが、ここでジュリの話を打ち切るわけにもいかなくて。 とにかく、最後まで聞いてしまおうと覚悟を決めた。 ……のに。 「で、まあ……勢いでキスしちゃって」 ジュリの言葉を聞いた途端に、たった今築いたはずの覚悟は音を立てて崩壊してしまったのだった。 もう、すぐにでも逃げ出してしまいたい。
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