Ⅰ

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「それは……和成先輩のことが好きだからですか?」 ジュリも、和成も。 そして文雄も、顔を強ばらせたまま動きを停止させる。 が、恵美が本当に言いたかった事は、そんなことではなかった。 「私が言うのは、違うのかもしれないですけど……。 ジュリさんは、私が羨ましいから、和成先輩に優しくして欲しいって思ったんじゃないと思います。 本当は、フミさんに……優しくしてもらいたかったんじゃないですか?」 「……え?」 ジュリが、か細い声を出して無理に笑い声を上げると、文雄を見た。 2人とも気まずそうに目を合わせては逸らして。 チラチラと互いを見合いながらも、なかなか口を開こうとはしない。 それでも、ようやく文雄が茶化したような笑い声と共に言葉を発しかけたのに。 ジュリが、それを遮るように、思いがけず真剣な口調で言ったのである。 「……恵美ちゃんの、言うとおりかも」
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