Ⅰ

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恐らく、ジュリ自身が、一番自分の言葉に驚いたのだろう。 すぐにでも訂正したいというふうに、両の手に力を込めて服の裾を握り締めている。 それでも。 「なにそれ。らしくないこと言っちゃって」 まぜっかえすように笑う文雄に鋭い目線を向けると 「私は、真面目に言ってるの。だから、あんたも真面目に聞いてよ。 ……こんな時くらい」 その厳しい表情からは想像できないくらい、小さな声で言った。 文雄の言うとおり、こんなに弱気な態度はジュリらしくないのかもしれない。 けれども、そんな彼女だからこそ、今この瞬間は全てをさらけ出しているのだと思えて。 次の言葉が発せられるまでの間に、緊張感が高まっていく。 「はいはい」 軽く言っているつもりなのだろうが、文雄の声も、いつしか固くなっていた。 恵美だって、この場の関係者であるはずなのに、どうにもジュリと文雄の様子を眺めていると、自分が部外者で邪魔者のように思えてしまう。 が、チラリと隣を見れば、和成も同じようにソワソワした様子で下唇を舐めているばかりで。 そんな彼の様子に気がつけば、ちょっぴり安心感さえおぼえてしまうのだった。
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