Ⅰ

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「私は、もうカズくんが好きになってるんだと思ってた」 ジュリがドキリとさせるようなことを言う。 が、その口調は冗談でもなんでもないことを表していたから。 恵美が一人で騒ぎ立てるのも違う気がして、動揺しているのを押し隠すように身を硬くする。 けれども、彼女の身構えた様子に気がついたジュリは、ちょっと笑って続けた。 「フミとは別れて、カズくんと付き合えば幸せになれるんじゃないかって、思ってたの。 さっき恵美ちゃんに言われるまで……ほとんど本気で、そう思ってた。 でも、違ったんだね。 カズくんが優しくできるのは、相手が恵美ちゃんだからで……。 その代わりに私が入っていっても、きっと、私もカズくんも幸せにはなれないんだね」 「ジュリさん……」 恵美は、息苦しいようなもどかしさを感じて、何か言わなければと口を開きかけたけれど。 ジュリはそれを制すように小さく首を振ってくれたから、ホッと息をついて震える唇を閉ざした。 「誰でも良いから、優しくして欲しいんじゃない。 私は……やっぱり、フミに優しくして欲しいんだなあ。 優しくない奴にそんなことを願うなんて、本当にバカみたいだけどさ」
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