Ⅰ

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「そうなの?」 返答するジュリの声が、急に力ないものへと変わっていく。 「だって、フミ……」 まだ納得できないというふうに、何か訊ねようとはしていたけれど。 「お前と別れるなんて、考えたこともねえもん。 絶対、嫌だからな。俺は」 なんて、駄々っ子のように首を振る文雄に、弱々しい笑みさえ浮かべて 「なんなのよ……。本当に、自分勝手なんだから」 体中の力が抜けてしまったとでもいうふうに、椅子の背に寄りかかって、しばらくは動けないようであった。 彼女もそれ以上は反抗する気もないようで 「しょうがないなあ……。まあ、あんたに我慢できるのは私くらいなもんだしね」 と頬を赤らめたりしている。 突如として飛び出した二人の別れ話は早くも消え去ってしまったらしい。 この不思議な展開に、耐え切れずに口を挟んだのは和成であった。 「なんだ……結局、フミさんもジュリも……意地張り合ってただけってことじゃん」
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