Ⅰ

56/74
前へ
/632ページ
次へ
これには、すかさずジュリも文雄も反抗的な目になって、和成の方へと顔を上げたのだけれど。 「違う!」 2人が2人とも、全く同じタイミングで同じ言葉を叫んでしまったのだから、もう和成も苦笑いを浮かべるしかなくて。 それを見ていた恵美でさえも、なんだか無性に嬉しくなって、ニヤニヤ笑いが浮かんでしまう。 「やっぱり、2人とも仲がいいんですねえ」 「違っ……」 今度もまた、ジュリと文雄は言いかけたけれど。 またしても声が重なりかけたことに気がつくと、慌てて口を閉ざしてから、決まり悪そうに互いを見やった。 「まあ……いっか。ラブラブってことで」 恵美の方が顔を赤らめてしまうようなことを口にしたのは、文雄だった。 彼は、もうすっかり晴れ晴れした顔になって笑っている。 「な?」 と、ジュリの手を強く引きかけて。 一度、慌てたように手を離すと、今度はもどかしくなるほど柔らかく彼女の手を取った。
/632ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3303人が本棚に入れています
本棚に追加