Ⅰ

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ひとたび軽口が飛び出せば、もうすっかりいつもと変わらぬ言い合いが始まってしまって。 また喧嘩が始まるのではないかと恵美が心配した通り、2人の口調は荒さを増していく。 「だいたい、まだ私は、あんたの浮気を許したわけじゃないんだからね。 もう絶対にしないって約束しなさいよっ」 「あー、分かった分かったって。もうしませんよー」 「本当に分かってるの?恵美ちゃんにだって、絶対に近付いたりしちゃダメだからね!?」 「大丈夫だって。しつこいなあ」 「しつこいって……フミ!」 何を言われても、文雄は肩をすくめて、つまらなそうに口を尖らせているばかりだった。 が、不安げに彼を見つめている恵美の視線に気がつくと、ニッと白い歯をむき出して見せてから、ジュリに向き直った。 「本当に、本っ当!」 と、まるで拝むように手を合わせる文雄は、上目遣いにジュリを見る。 「絶対に、ジュリを不安にさせるようなことなんかしないから……。 だから、もう怒るなよ。 な?」
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