Ⅰ

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嫌な予感ばかりが膨らんでしまうような、少しの間をおいてから。 和成は、きっぱりと言った。 「好きじゃない」 その言葉を、どんなに期待していたことか。 聞いてしまえば、『本当に?』と疑いたくなってしまうのは分かっていたけれど。 とにかく今は、真っ直ぐ自分の目を見て言ってくれたことが嬉しかった。 何の根拠もないけれど、彼の言葉を信じていいんだと思えて、体の中に押し込められていた汚れた空気を吐き出してしまえたような気になる。 それなのに。 ハッピーエンドの文字でも浮かべて一区切りつけたいような気分の恵美に、和成はとんでもないことを付け加えたのである。 「もう、ごちゃごちゃすんの嫌だから言っとくけど。 確かに前は、あいつが……ジュリが好きだった」
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