Ⅰ

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「……え」 いくら、珍しく正直になったからと言って、恵美としては、ここまでバカ正直に話してもらっては困るばかり。 突然の告白に、目の前がチカチカしてしまう。 「好きだったから……あいつがヘコんでた時は、フミさんから奪ってやろうって思った時もあった。 でも結局、あいつはフミさんしか見えてなかったわけだし。 俺は、その後すぐに恵美に会ったから……。 今は、もちろん好きじゃない。 今は恵美が……」 と言いかけて、止めてしまった。 その正面で、恵美は無表情のまま彼をぼんやりと眺めていて。 こんな時、泣けばいいのか、笑えばいいのか分からぬままに、かすかに開けた唇を震わせながら視線をさ迷わせていた。
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