Ⅰ

66/74
前へ
/632ページ
次へ
上手く言葉にして伝えることは難しい。 行動に移すのは、もっと難しい。 そう思っていたのに、あっと思った時には、呆気にとられている和成から、ようやく唇を離したところで。 その時になって、ようやく自分がなんとも大胆なことをしでかしてしまったことに気がついた。 「せんぱ……い」 彼の反応が怖くて、うつむいた顔が上げられない。 しかも、こんな時に限って彼は何にも口にしないまま黙って彼女を見下ろしているのである。 いつもならば笑って茶化してくるだろう場面なのに、押し黙られてしまうと、あまりに積極的過ぎる行動に気持ちが離れていってしまったのではないかと不安で。 不意に和成の笑い声が漏れ聞こえた時には、思わずビクリと肩を揺らしてしまったほどだった。
/632ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3303人が本棚に入れています
本棚に追加