Ⅰ

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「お前……」 顔を上げてみれば、彼は息も絶え絶えになって笑いを堪えている。 その異様な光景に、恵美はポカンと開けた口を閉じることができなかった。 「お前、なんで、このタイミングでするわけ?訳わかんないし」 そういわれてしまえば、彼女自身だって理由なんか分かっていないのだから、答えようもない。 「私だって……訳わかんないですよ。 こんな、急に……。ジュリさんと先輩の間で色々あったとか。 実は好きだったとか。 そんなこといっぺんに言われたから、訳わかんなくなっちゃったんです」 「……それは、確かに悪かった。でも……」 「でも」 2人の『でも』が同時に発せられると、お互いに思わず顔を見合わせて、ちょっと笑った。 「でも」 言いなおしたのは恵美のほうである。 「でも、そりゃあ、やっぱり過去が気にならないわけじゃないですけど。 だからって、じゃあ先輩と別れたいかって言われたら、絶対そんなことはないんです。 ……くやしいけど」
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