Ⅰ

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この笑顔に魅せられて、やっぱり恵美は確信してしまった。 「ずるいですよお……」 「は?」 「だって、そんなに優しい顔されちゃ……本当に離れられなくなっちゃいます」 ヨロヨロと背にもたれかかる恵美を、和成は溜め息をつきながら眺めていた。 そして、一つ大きな溜め息を吐くと 「なんなんだ、お前は」 急に微笑をかき消して言ったのである。 「なにって……先輩こそ、なんなんですか急に」 「だってさ。 今の今まで色んなことが一度に起こっちゃったから、今日くらいは俺だって、しおらしく静かにしといてやろうと思ってたのにさあ」 「『のに』?」 キョトンとした瞳で見つめ返すと、和成はまた、大げさなほど深い溜め息をついてからボソリと呟いた。 「お前が、そんなこと言うから……もう、我慢できそうにないぞ」 「へっ?」
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