冬桜《パソコンver》

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 鳴かせる。鳴かせるって。  表現がリアル過ぎる。奴の前でハダカになったの? 副店長は奴の前戯に感じたの? 奴のモノにイかされたの?? 「まあ、プライベートなことだから誰と付き合おうが勝手だが、バイトに手を出して降格になった社員を俺は何十人と見てる。お前だって知ってるだろう?。相田も上に行きたいなら、そこは覚悟するんだな」  最後に奴は「ま、そう言うことだから」と僕に吐いて店を出て行った。休憩室に残された僕と副店長はしばらく黙っていた。黙ってるってコトは認めるってコトなんだ。僕は時間になると客席に向かった。  やっぱり僕は副店長が好きなんだと思った。改めて知らしめられた。見てるだけの憧れの存在でいいだなんて、そんなの相手にもしてもらえない自分の言い訳だって。でも奴が言い残した台詞が気になった。バイトに手を付けちゃいけないって。ここは社内恋愛は禁止なんだ。じゃあ、僕はバイトを辞めない限り副店長とは付き合えないってこと? 副店長なら僕を辞めさせてまで付き合うなんてしない。何てったって仕事が恋人だし。それより僕のことコドモって言ってた。大人の副店長が学生の僕を相手にする訳もない。きっとあの本社の奴みたいな、いいスーツを着こなして高そうな腕時計はめてるような人間じゃないと同じ土俵には立てないんだ。  自分の21って年齢が惨めに思える。バイトを頑張った位じゃ認めてもらえない。言われた時間に来て言われた作業をして、バイトなんて副店長や店長に比べたらお遊びみたいなものなんだ。  早く社会人になりたい。大人になりたい。副店長と肩を並べたい。でも僕が大学を卒業する頃には副店長はどこかの店舗に異動してるし、僕だってバイトを辞める。僕はどうしたらいいんだろう。このまま指をくわえて見てるしかないのか……。でもボヤボヤしてたら誰かに取られてしまいそうで、学生の不甲斐ない自分に情けなくなった。
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