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程なくして僕が頼んだハンバーグも運ばれて来た。一緒に食べる。副店長は、「榎並くんって偉いよね、親に頼らず学費を稼ぐなんて、尊敬する」と話してきた。僕はびっくりした。社会人の彼女が学生の僕を尊敬するなんて言ってきたから。これからも応援するから頑張って夢を叶えてね?、と言われた。それはなんだか別れの台詞にも聞こえた。
食事を終えて時計を見ると、短針は4時を指していた。
「そろそろ帰ろっか」
副店長が言った。束の間のデートは終わりを迎えた。僕は年度の切り替えで、受講したいクラスの申し込みがあって大学の事務局に行かなくちゃいけなかった。うちに帰ったら眠ってしまい、起きる自信がなかった。
「あの、僕はこのまま始発までいます。朝イチで大学の事務局に行く用事があって」
「そう……。まだ暗いね。帰るのちょっと怖いから、私も朝まで付き合うね?」
一緒にいたかったけど、彼女の悲しげな表情は疲れから来てるのかと思い、付き合わせるのが悪くて僕は申し出た。
「じゃあ、送っていきます。副店長は今日もシフトに入ってますよね? 自宅で少しでも休んだほうが……」
そう言うと、副店長は少し目を見開いた。そして、あの笑っているのに泣きそうな表情……。
「もう、冗談だから。大丈夫、一人で帰れる」
副店長は伝票を取って席を立った。僕に「棚卸し、助かった。ありがとね」と言い、足早にレジに向かって行った。彼女は会計を済ますと振り返らずに外に出た。
僕は少し躊躇したあと、席を立った。勿論、束の間のデートが終わってしまうのが嫌で、もう少し彼女の側にいたくて、というのもあった。それよりも、今日の彼女が違っていたのが気になった。どことなくいつもと違う副店長……。僕は純粋に心配した。自宅まで送って行かなきゃいけないって思った。暗いから怖いって言ってたし、口実になる。別に送り狼になるつもりもないし、副店長だって僕のことはそんな対象じゃない。
店を出て彼女の消えた方へ走る。後ろ姿を見つけた僕は彼女に追いつき後ろから声を掛けた。
「送ります」
副店長が振り返る。驚いた顔した後、すぐに困ったような表情になる。僕が来ちゃいけなかったみたいに。
「どうせファミレスにいても眠っちゃいそうだから」
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