冬桜《パソコンver》

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 僕はすぐに果てた。三擦り半っていうけどあまりにも気持ちよくて、すぐに出してまった。恥ずかしかった。情けなかった。彼女に覆いかぶさり、不甲斐ない自分のものに落ち込んでると、副店長は僕の頭を撫でるようにして抱きしめてくれた。さっきみたいにクスクスと笑ったりはしなかった。  僕は行為を終えた後、副店長に風呂場に案内された。タオル用意しとくね、と中に押し込まれた。レバーを上げてシャワーを出す。副店長の匂いがする。シャンプーや石鹸、入浴剤が並んでいて、これが副店長の匂いの元なんだと思った。  夢じゃない。副店長としたんだ。1年越しの片思いが実ったんだ。副店長の白いハダカ、華奢な腰、細い腕、暖かいカラダ。初めての僕を受け入れてくれた。終えたあとの充実感。副店長の優しい表情。僕を抱きしめてくれた手。  シャワーを浴び終えてタオルを借り、脱衣所に置かれていた僕の服を来て部屋に戻る。コーヒーの香ばしい匂いに誘われてソファに座る。パジャマを着た彼女の隣。プライベートな副店長。  でも、僕は戸惑った。だって、横に並んだ副店長の顔にベッドの上で見た優しい表情はなかったから。怖い顔。ひょっとしたら僕としたことを後悔してるのかもしれない。僕を勢いで抱いたのかもしれない。僕はこの沈黙が怖くて「あの……なんて言っていいのか、その……」と言いかけた。すると副店長は、 「今日のことは、内緒。大丈夫よね??」 と僕を遮った。僕は少し俯いた。そしてちょこんと頷いた。きっと本社人事部の奴が言った通り、ばれちゃまずいんだ。だから険しい表情をしてるんだと解釈した。その後は僕も彼女も無言でコーヒーを啜った。  始発の出る時間になり、僕は立ち上がった。副店長に軽く頭を下げてから玄関に向かう。彼女も僕の後を追うようについて来た。僕はちゃんと伝えたかった。成り行きなんかじゃない。抱いたのは好きだから。勢いじゃない。 「あの、僕は前から副店長のことが……」  すると副店長は僕の言葉を遮るように唇を重ねてきた。何故僕の口を塞ぐのか分からなかった。副店長の出方を待つ。  彼女は僕を突き放すかのように、クスクスと微笑んで、言い放った。 「あのね。大人は、そういうことは、言わないのよ? 分かった??」
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