冬桜《パソコンver》

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 だから、僕は幸せになっちゃいけない気がした。付き合いだした彼女とも上手く行かなかったのは、きっと神様の思し召しなんだと思う。  きっと、これから先も……。 . 1  『副店長』と出会ったのは大学3年の春だった。 「えっと、『えなみ、まなぶ』さん。大学3年生。希望勤務時間は21時から……夕方から入れませんか?」  僕はバイトの面接に来ていた。宝飾品のデザインをやるのが夢で、その専門学校に通うための資金が欲しかった。大学は親の勧めで全く関係のない部門を受験した。まあ、宝飾デザイナーで食って行ける訳もないし、親なら誰だって反対する。でも僕は宝飾デザイナーを諦め切れなくて、僕は自分で学費を捻出することにした。そのために大学の単位は1、2年でほぼ取得して、後は外国語とゼミを残すだけにした。時間を作って専門学校に通い、バイトをするために。 「夜間の専門学校に行きたいから無理です。すみません」 「あれ? 大学生よね??」  面接をしてくれたのはこの店の副店長さんらしかった。胸に付いたネームプレートには『副店長 相田夏海』と印字されていた。歳は……僕よりはずっと上みたいだ。30、超えてるかどうか。でも女性の年齢って分からない。高校も大学もほぼ男子校みたいな所で、女性に接点ない生活を送ってたから。だから今日のこの面接すらドキドキしている。 「へえ。最近の学生さんには珍しいのね」  あらかたの経緯を話すと感心したように頷いてくれた。  バイトの経験の有無や、バイトに来れる曜日を聞かれた。僕はバイトも初めてで、料理も得意じゃないと答えると、彼女の表情がやや曇った気がした。  面接はここで3軒目。レストランだと賄いが付くのと、従業員に女の子がたくさんいるから彼女を作りやすいって大学の友人から聞いて、レストランばかりを選んで面接に来た。でも一番混む夕食時にバイトに入れない上、ゴールデンウイークに即戦力にならない未経験者で前の2軒は断られた。だから彼女の表情でここも駄目か思った。 「あとは店長と相談して採用するか決めます。お疲れさまでした」  副店長さんはニコッと笑うと一礼して退席を促した。数日後、携帯が鳴った。副店長さんから連絡が来て僕は採用になったと告げられた。もう駄目かと思ってたから喜びもヒトシオで、「やったー!」と叫んでしまった。副店長さんは電話口でクスクスと笑っていた。
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